2012.11.24 オレイカルコス師弟
額にオレイカルコスの結界の紋章を光らせ、ガールは力のままに全てを破滅させようとしていた。
破壊行為の邪魔をする者は敵と見なし、それが己の師匠でも牙を剥く。
オレイカルコスの結界で強化されていつもより数段強く、弟子を傷つけられないのもあって、ブラマジは彼女に太刀打ち出来ないでいた。
――目の前が霞む。力が入らない。手から杖が落ちる。動けないブラマジを見て、ガールはとどめをと自らブラマジの前に立ちはだかった。
ガールが杖を振り上げようとした瞬間、ブラマジは杖を払いのけ、そしてガールを思い切り抱きしめた。
「目を覚ましてくれ、ガール…!」
ブラマジに残されている力はもうない。最後の力を振り絞って、ガールが正気に戻るようにと願いながら強く抱きしめる。
ガールは無表情のままだ。
だが、温かい水が肩を濡らしているのを感じた。
ガールはまだ心の奥で生きている。
望まぬ力に侵されて、もがき苦しんでいる。
「…お…し……さま…」
ガールが呟いた。
それは聞き取れるか取れないか程小さくて、しかしブラマジはその声を聞き逃さなかった。
腕に力が籠る。
「ガールっ!」
途端、オレイカルコスの結界が足元に広がった。
正気を取り戻した瞬間だった。
タイムリミットだ、もう助からない。
「おししょ…さま…」
「この馬鹿者…っ」
ガールを手放したくなくて、腕の中に閉じ込めた。
閉じ込めているのに消えていく足。
薄れていく体。嘘だ。認めたくない。逃がしたくない。
「お師匠サマ、泣いてるの?」
三千年も共に過ごしてきた弟子と別れることになるのだ、悲しまない方がおかしいだろう。
ブラマジは何も言わず、ただガールを抱きしめる。
「お師匠サマ、私、三千年前にお師匠サマが死んだ時、すっごく悲しかったんですよ。
別れの言葉も何も言わないでいっちゃうから…今なら、私の気持ち分かるでしょ?」
これは私への罰なのか。因果応報というものか。
紋章が光り、ガールの魂を奪おうとする。
ああ、消えてしまう。
「…救えなくてすまない」
「お師匠サマ、」
ガールはブラマジに身を委ね、涙を一筋零した。
一呼吸置いて、ガールはブラマジの肩越しで微笑む。
「…ありがとう」
言い終えた瞬間、ガールは光に包まれて消えた。